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INTERVIEW インタビュー

取材:2023年3月13日

※本文中の情報はすべて取材当時のものです

代表取締役 松葉勇社長

御社の略歴を教えてください。

2010年春に設計事務所を立ち上げ、その後同年の11月に建設会社を立ち上げました。

御社は十津川村の木にこだわっているそうですが、その理由とは?

出身が十津川村なんです。林業を営む実家が十津川の木を育てていたので、私自身も子どもの頃から木を植えたり枝打ちや下草刈りをしたり、十津川の木に触れてきました。ですが、大人になって地元に戻ってみると、当時自分で植えた木が活用されずに荒れ果てているのを見て「これはどうにかしないといけない」と胸が痛んだんです。そこで、十津川の木を活用する方法を模索して、十津川村森林組合に働きかけました。

十津川村では林業が衰退してしまったのでしょうか?

私が小学生の頃は林業が盛んだったのですが、ここ数十年で林業は徐々に右肩下がりになってしまいました。十津川村は98%が山なので、現在では観光業を主力に、災害が多い地域ということもあり、土木業も盛んです。

奈良県産木材の生産量はピーク時の約1/7に

十津川の木にはどのような活路があるとお考えですか?

まず第一に、売り先や売り方について考えなければいけない。十津川村の木は特にブランド化されておらず、伐採後は隣の和歌山に運ばれて加工されることが多いため、紀州材のひとつとして売られていたのです。

十津川村では木の加工はされていなかったのですか?

していませんでした。あっても簡単な加工しかできない小さな加工場しかなかったので、十津川の木は「素材」として扱われてしまい、同じ奈良県の吉野桧のような「ブランド」には育たなかった。そこで30年ほど前から、木材の加工まで村で行うための取り組みを進めてきました。

そのような改革は地元ではとても歓迎されたのではないでしょうか?

全然そんなことはありませんでした。そんな夢みたいな話…という感じの反応でしたよ。田舎は保守的な方が多く、新たなチャレンジは警戒されがちなんです。

ただ、思わぬ転機がありました。
村には「十津川木材協同組合」という組織があり、当時和歌山の新宮市と奈良の橿原市に市場を持っていたのですが、林業が衰退して市場を閉じることになったんです。その跡地にイオンモールが建ち、組合に家賃収入が入ることになった。
私も「その資金を十津川の木のために活用するべきだ」と声をあげ、ようやく十津川村に本格的な製材工場ができたんです。

手作りの可愛いサイン

温泉や吊り橋でも有名な十津川村

十津川村の木は他の木に比べてどういった違いがあるのですか?

十津川村は吉野郡の中でも特に山深く、斜面がきつくて急なんです。山はそれなりに高いのですが、日当たりが悪く木の成長が遅い。実はこの成長の遅さがポイントで、木材にとっては、木の成長が遅いほうが伸びるのに時間がかかるため、その分強度が増すんです。

色々な専門家の方に依頼して、実際に十津川材の強度を計測してもらいました。そして、これなら柱材としても十分使えるということが判明したんです。関西では、家の柱といえば桧が多く、杉はあまり使わない傾向にありましたが、強度が桧と変わらないのであれば、柱材として杉を活用するという選択肢が生まれたのです。

十津川村の人たちでさえ、自分たちの木の本当の魅力に気づいていなかったのかもしれませんね。

そうですね。それまで木を科学的に分析するような機会はなかったので、地元の皆さんに理解が行き渡るまでに何年もかかりました。建築家や、他県で同じような取り組みをしている方を十津川村に招待したり、説明会を実施したりしながら、根気よく説得する必要があり、最初はとても苦労しました。

十津川村への想いを語る松葉社長

とても有意義な活動だと思います。実際の家づくりで、十津川村の木はどれくらいの割合で使用されていますか?

フローリングなどには十津川以外の奈良県産材を使うこともありますが、構造材に関しては100%十津川村の木を使用しています。
ただ、これは十津川の木の弱点と言えるのですが、成長の過程であまり手入れがされないため、木材として加工すると節が多過ぎて目落ちしてしまい、人の目に触れる場所には使いにくいんです。そのため、化粧材には向かず、主に壁や天井の中に隠れる構造材として使われるケースがほとんどです。

国産材だけを使用することの難しさはありますか?

当社の新築は全棟が長期優良住宅なのですが、その申請に必要な構造計算のソフトが国産材に対応していないことが多く外注が難しいので、すべて自社で構造計算をすることになりました。
また、スパンを飛ばしすぎた場合などには間取りや木材の調整が必要になることもありますが、そのような特殊な場合を除いて、基本的には100%国産材で性能面もクリアしながら建てることができます。

国産材を使うことで、目に見えない性能や構造部分でのコストが上がることについて、お客様には理解をいただけるものですか?

ほとんどのお客様は当社が性能面に力を入れていることを理解した上で来てくださいます。自然素材にこだわる工務店も増えていますが、断熱や気密の性能がおろそかになりがちで、素材も性能もどちらも徹底しているのは他社にはない当社の強みだと自負しています。

家を建てられるお客様の年齢層は?

最近は40〜50代の層が増えてきましたが、以前は20〜30代中心でした。

このあたりは大阪へのアクセスもよく、奈良県内よりもむしろ寝屋川市や八尾市などの大阪からのご依頼が多いんです。人口の多い大阪が商圏となり、十津川村へも車で2時間かからないという好立地が、この葛城市に本社を構えた最大の理由でした。

ここだと大阪にもアクセスがいいですもんね。

そうですね。私がこの場所を選んだのもそういった理由からなんです。大阪にも近いし、十津川村にもアクセスしやすい場所。ここからだと十津川村まで車で2時間かからないくらいでしょうか。

お客様とのDIY体験会を積極的に実施されているそうですが、他社にはない魅力ですね。

漆喰塗り体験がメインなのですが、プロの方に塗ってもらうためのコストをなんとか節約できないものか…という思いがきっかけでした。
実際、一緒に楽しんで塗ってくださり「家づくりの思い出になった」「愛着が湧く」というお声をいただけるので、やってよかったなと思っています。家づくりの大変さや面白さについての理解をさらに深めてもらうきっかけにもなれば嬉しいです。

印象的な木材の壁を背景に

「753 FURNITURE」という家具ブランドも展開されているのですね。

はい。「753 FURNITURE」では、十津川の木を使用したこだわりの家具を設計士や職人が一つずつ丁寧に作っています。お客様の希望を叶えたフルオーダーの木の家具を製作します。

素晴らしいですね。国産材にこだわったお客様なら、インテリアもまとめて提案してもらえるのは嬉しいポイントだと思います。

ボードや収納棚などに杉を使うことで、杉材を使用した床との一体感が生まれます。また、杉の木目は漆喰との色合いの相性も抜群なんです。家具も家の一部として楽しんでいただければ嬉しいです。

最後に、近木協に求めることはありますか?

全国は難しくとも、せめて近畿圏内の国産材の橋渡しをしてほしいという思いがあります。
実際、他の奈良県材も使いたいと思っていても、情報がなかったり連携が取りづらかったりすることもあり、なかなか実現しにくい現状があります。木材を取り扱っている会社の情報をまとめて窓口をひとつにすれば、横のつながりも増え、全体の回転率が良くなるだろうと思います。